強制結婚 ~石油王の妻にさせられた私~
「いいか? 今日いらっしゃるジャミール氏はカダル国のシークだ。くれぐれも失礼のないように」
私に向かって資料を差し出しながら課長が言った。
――カダル国。
中東にある小さな国だ。
石油が主な産業で、ジャミール氏はシーク――その部族の中で一番偉い人だ。
私の勤務先である東都社は今回、ジャミール氏の部族と新たなビジネスを始めることになっていた。私はその担当で、入社して以来はじめての大仕事だった。
「あの、でも、本当に私でいいんですか? 女を担当につけたなんて、嫌がられるんじゃ……」
カダルは他の中東の国々と同じように、伝統的に女性の地位が低い。
仕事をするのは男だし、家を守るのが女という価値観らしい。
そんな国の人との仕事に女性社員を、というのは大丈夫なのかというのが一番の不安要素だった。
「その点は問題ない。ジャミール氏はアメリカの大学を卒業しているエリートなんだ。古い考え方はよくない、と言っていたよ」
「そうなんですね、よかった……」
だったら、あとは私の頑張り次第。
頑張らなくちゃ!
そう思って、資料をめいっぱい抱きしめた。