奥さんの身柄、確保!
「奥さ…放してっ‼……くそっ、逃げられたか⁉」

 彼の位置から、黒い影がサッと逃げるのがみえたのだ。
 咄嗟に追いかけようと、私を押し離そうとした彼は、しかし急にピタリと動きを止めた。

「ご、ゴメンなさっ……⁉」

 次の瞬間ーー

 彼は離しかけた私を引き寄せ、ぎゅうっと抱いた。

「ちょっ…何をやって…⁉」

 今度は突き放そうとする私を、さらに強い力で抱き締めながら、低い声で耳打ちした。

「しっ…奴がまだいる…場所を変えてこっちをジッと見てる」

「イヤ…」

 彼は叫ぼうとした私の口をそっと手で塞いだ。

「奥さん…いいですか?フリです。抱き合う…恋人どおしの…」
「⁉」

 言いながら彼は、大胆に私の身体をまさぐり始める。

「ふぁ…ちょっと…こんなコトやってる場合じゃあ…」

「フリです!いいぞ…奴は相当イラつき出した。…奥さんも、俺に手を回して」

 彼は真剣な表情で外を見つめたまま、私の手を持ち上げた。

「…捜査に協力願います」
「は、はいっ!」

 私は彼の腰に手を回し、夢中で抱き合う演技を開始した。
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