奥さんの身柄、確保!
 …これは…
 …しかし…
 …かなり…

 窓の外をチラチラ見ながら、柿田巡査がイライラと囁く。

(…奥さん、もう少しリラックスして…犯人がまだ躊躇ってる…)

(んなこと言われても…)

 さっきからギクシャクしている私。
 だって、ハズカシイんだもん!

(ちっ……こうなったら奥さん、顔を上げて、俺の目をよく見て…)
(え?)

 見上げた私に、彼は澄んだ瞳を向け悪戯っぽく微笑んだ。
 子供のような無邪気さに大人の色香を潜ませた眼光に、私はつい魅せられた。
 
「…一花…」

「う…あ…柿田さ…」

 ポーっとなってしまった私は、気がつくと彼のなすがままに唇を奪われた。

 息を接ぐ間に、彼は何度も名前を呼んだ。
「一花…」
「う…柿田さ…」

 何度も角度を変えていくうちにやがて、演技を忘れ、口腔内を這い回る舌使いに、いつしか夢中で合わせていた…

…と、彼が唇を離し、ニッと笑う。

「…ありがとう、一花さん」

「ふぇ?」

ぽーっとしている私に向かって彼が囁いた。
 
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