探偵の彼に追跡されて…
私は沙汰郎が出かけると直ぐに荷物をまとめる。
聡美さんに会ってからいつかこんな日が来ると思って少しづつ荷物を減らして居た。

沙汰郎はとても目敏く私の置いてある洋服が少なくなるのを見て『なぜ洋服が減ってるの?』と何度となく聞いて来た。その度に『洋服を入れ替える』とか『新しい洋服を買おうと思って』と誤魔化して来た。

「もしもし優子先輩?今から部屋を出ます。  はい、じゃ後で」

私は左手薬指の印を外しベッドのサイドテーブルの上に退職願いと一緒に置く。

そして玄関へ向かい「さよらな」と部屋を出た。

階段を降りると呼んでいたタクシーが待っていた。
私は急ぎ乗ると行き先を告げた。

タクシーを降りる時運転手さんに

「あの…多分男の人が私を探して訪ねて来るかも知れませんがここで降ろしたことは言わないで下さい」

「DVか何か?」

「まぁ…居所を知られたくないので」

「分かった。私にも同じ年頃の娘が居るから安心しなさい。絶対言わないから」

「ありがとうございます」とお礼を言ってタクシーを降りた。

なんの関係もないオジサンにも嘘ついちゃったごめんなさい。

私はタクシーを降りるとファーストフード店に入る。

「優子先輩!お待たせしてすいません。これ大家のお婆ちゃんに鍵と一緒に渡してもらえますか?」

私は急に引っ越す事になったので挨拶も出来なくて申し訳ないと言うお詫びを書いた手紙と2ヶ月分の家賃の入った封筒を優子先輩に託した。





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