探偵の彼に追跡されて…
もう何年もプライベートでこんなお洒落はしていない。

普段は背中まである黒髪を一つに束ねて日焼け止めだけでメイクはしない。

服装もセーターかトレーナーで、Gパンにスニーカーを履いている。スカートはまず履かない。

通勤時には帽子を深く被り黒縁メガネを掛けて少し俯き加減で歩く。

だから、駅や道で大学時代の友人とすれ違っても気づかれない。勿論、私から声を掛ける事はしない。

あの日から私だと気付かれないように生活している。

3年前、何度か無言電話が掛かって来て私が留守の間誰かが部屋に入った形跡があった。

別に何かを盗まれた訳では無くただそんな気がした。

朝使ったマグカップをテーブルに置いたまま片付けずに仕事に出掛けた筈なのに帰って来たら洗ってあったり、洗面所に置いてあるヘアーブラシの位置が少しズレている様な気がした… 初めは気のせいだと思っていた。

でも、無言電話は私が部屋に入り電気を点けたら掛かってくる。そして私が出ると電話は切れる。

私は気持ちが悪くて直ぐに引っ越しをしたが、3ヶ月ほどでまた無言電話が掛かってくる様になった。

誰だか分からない影に悩まされて、アパートを2度も引っ越した。

今のアパートに引っ越して来た時は携帯も有るし電話を引くのはやめようと思ったが、無言電話が掛かってくるかどうかで、家が相手に知られているかどうかの判断が出来ると思って固定電話を置いている。

今は仕事の行き帰りに駅のトイレで服を着替えて、使う駅も遠回りしたりして変えている。
お陰で今の所無言電話は無いから家も知られていないと思う。

「どうした? 難しい顔して?」

「いえ…何でもありません。」

「何か心配事があるなら言えよ? 相談に乗るから」

所長は私の様子を窺うように顔を覗き込んだ。

今の所はっきりした被害が合った訳じゃない。わざわざ所長に心配をかけるような話をする必要はないだろう。

「はい… 有難うございます。」





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