探偵の彼に追跡されて…
新たな道へ
優子先輩と別れてどこへ行くと決めた訳でもなく下りの電車に乗った。

今頃沙汰郎が帰って来て私が居ない事に気付いている頃だろ。
沙汰郎は慌てて私のアパートに行き私が居なくなったことに優子先輩が関わっている事を沙汰郎なら直ぐに気付くだろう。
だから優子先輩とは時間をかけずにお願い事だけを頼んですぐに店をでた。
本当に我ながら勝手だとは思うが…

暫く車窓を流れる景色を見ていた。

「一人旅ですか?」

向かいの席に座った女性が声を掛けてくれた。

「…ええ」

「私は実家に帰って来た帰りなんです」と微笑んで言う。

「そうですか」

「私、旅館の一人娘だから帰って来いって父が煩くて。母からはたまには顔を見せに帰って来なさいってしょっちゅう電話が掛かってくるし、でも仕事を理由になかなか帰らなかった」

「私も実家には殆ど帰っていないです」

彼女はそう?と言って微笑むと話を続けた。

「私、仕事先の妻子ある人と付き合ってたの。でも彼に捨てられて辛くて実家に逃げ帰ったんです」

「えっ不倫ですか?あっごめんなさい…」

私は自分の失言に口に手を当てる。

彼女は微笑んで首を横に振る。

「自分でも不倫はいけない事って分かってたから」

彼女は車窓に顔を向ける。
でも車窓を流れる景色を見てるのではない。
そこに別れた彼の姿を見ているのだろう。

「でも、辛かった…彼が私じゃなくて奥さんを選んだ事が…
奥さんとは家庭内別居してると言う彼の言葉を信じていたから…」

「………」

「父は突然帰って来た私に何も聞かず沢山の料理を作ってくれたの…私の好きな物ばかり。
そして父が『食ったら帰れよ!お前には待ってる人が沢山いるだろって?なにかあったらまた父さんの飯を食いに帰ってくればいい』って…いつもは仕事なんか辞めて家業を継げって言ってる父が…
本当に嬉しかった。
私はひとりじゃない。いつも見守ってくれてる人が居るんだって再確認したら吹っ切れちゃった。
私ね看護師なの今夜不倫相手の先生と夜勤なんだ。本当は辞めようと思っていたんだけど好きな仕事だから帰って来ちゃった」

「看護師さんですか…」

「ごめんなさい。初対面の人にこんな話して」

「いいえ…」と私は首を振る。

「あなたも忘れないで?あなたの事を見守ってくれてる人がいる事を」と彼女はそう言って次の駅で降りて行った。

彼女は私が涙を流していたのを見て心配して声を掛けてくれたのだろう。

ありがとう…

彼女が前に進んだ様に私も前へ進もう。
私にも見守ってくれてる人が居るから。
後で実家に連絡しよう。心配するといけないから…






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