探偵の彼に追跡されて…
【WSHI法律事務所】からの調査依頼があった。
依頼内容は化粧品会社の情報漏洩についてだった。

「渉。調査に入ってくれ」

「了解!」

渉は右手人差し指と中指を額の前で立てニッコリ笑う。



✻✻✻

渉とはもう9年になる。
出会いは夜の街を学生服でブラブラしてる渉に俺が声を掛けた。
初めは目つきも悪く粋がって居て、昔の自分を見てるようでほっとけなかった。

「おまえ腹減ってないか?」

突然の事で渉は一瞬目を丸くし驚いたが直ぐに目を細め睨むと

「ハァ? おっさん誰?? 気安く声掛けてるんじゃねぇよ!」と粋がって見せた。

知らない奴から突然の『腹減ってないか?』と聞かれてそりゃー驚くわな?
だが『おっさん』は無いだろう!? 俺まだ24だぞ…

「俺腹が減ってるんだ。美味いもん食わせてやるから付き合え!」

そして不審がる渉を行きつけのラーメン屋に連れて行くと

「なんだよ美味いものってラーメンかよ?」

「ああ。ここのラーメンはそこらのラーメンとは訳が違う。まぁ食ってみろ!」

渉はひとくちスープを飲むと『旨い…』と呟きその後は無言で食べていた。

「遠慮しなくて良いからな?腹いっぱい食え!」

と言うと渉はよっぽど腹が減っていたのか本当に遠慮しないで5杯も食いやがった。

その日俺は名前も何も聞かずに自分の名刺を渡し

「腹が減ったらいつでも訪ねて来い!」と言って別れた。

それから1週間して昼間、渉は事務所へ訪ねて来た。

俺はまたラーメン屋に連れて行きラーメンを食べると
「じゃーな!」と言って別れようとした。

すると渉は

『なんで… なんでなにも言わないんだよ? 学生服でこんな時間に彷徨いてたら学校サボってる事ぐらい分かるだろ? 普通の大人なら説教したりするんじゃないのか!?』

『じゃー俺、普通じゃないんだな?』

俺は鼻で笑い、後ろ手で手を振って事務所へ帰って来た。

すると渉は俺について事務所まで来て

『高校を辞めて家を出たい。ここで雇ってくれないか』と聞いてきた。

俺は渉の話を聞くと高校2年で今はほとんど学校に行っていないと言っていた。

両親は半年前に離婚し今は母親と二人暮しで、仕事の忙しい母親ともほとんど顔を合わせる事は無いという。

だから夜の街をふらついていようが学校をサボっていようが何も言われないと。

構ってくれる大人が居なくて拗ねてる? ガキだな?
昔の自分とそっくりだ…

俺はここで雇う条件を出した。

1、高校は卒業する事。
2、門限は10時。
3、ウソをつかない事。
4、挨拶をする事。
5、母親に何でも良いから毎日メールする事。

「このが守れるならここに置いてやる」

渉は俺の条件を聞いて「ハァ? なんだよ!? そんな条件のめるかよ!?」

「じゃー帰れ!」と、冷たく言う俺に渉はチッと舌打ちをして「分かったよ…その条件守るよ!」と言って視線を逸らした。

その姿が拗ねてる小さな子供のようで可愛かった。

渉はもともとは頭が良いらしく、俺の所から学校へ通う様になって成績も学年トップを取るようになり無事高校を卒業し大学まで卒業した。

今では俺の右腕としてこの探偵事務所を支えてくれている。





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