【完】音にならない“好き”をキミだけに。


「ちょっと向こうで話しませんか」

「はい」


そう返事することしか、俺に出来ることはなかった。






待合室で話をすることになり、佐倉の母さんが自販機でホットココアを買ってくれた。


「ありがとうございます」

お礼を言うと、クスッと笑った。


どうして笑われたのか分からないから、不思議な顔をしてたんだろう。


「楓生から聞いていた通りの人だと思って。笑ってしまってごめんなさいね」

「あ、いえ…嬉しいです」


佐倉が俺のことを、母親に話しをしていたことに驚きつつ、純粋にそのことが嬉しかった。


…ねぇ、佐倉。

もう、聞いてもいいですか?

「佐倉はどうしてここにいるんですか?」


「…あの子、右耳が聞こえないのよ」


佐倉の声で、顔を見ながら聞けばよかったって後悔した。


そうすれば、すぐ抱きしめることが出来たのに。

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