【完】音にならない“好き”をキミだけに。
「ちょっと向こうで話しませんか」
「はい」
そう返事することしか、俺に出来ることはなかった。
*
待合室で話をすることになり、佐倉の母さんが自販機でホットココアを買ってくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言うと、クスッと笑った。
どうして笑われたのか分からないから、不思議な顔をしてたんだろう。
「楓生から聞いていた通りの人だと思って。笑ってしまってごめんなさいね」
「あ、いえ…嬉しいです」
佐倉が俺のことを、母親に話しをしていたことに驚きつつ、純粋にそのことが嬉しかった。
…ねぇ、佐倉。
もう、聞いてもいいですか?
「佐倉はどうしてここにいるんですか?」
「…あの子、右耳が聞こえないのよ」
佐倉の声で、顔を見ながら聞けばよかったって後悔した。
そうすれば、すぐ抱きしめることが出来たのに。