【完】音にならない“好き”をキミだけに。
*
「……う、楓生」
「えっ…なに?」
それから、両親の関係は変わることなく秋になった。
「さっきから何回も呼んでたんだけど…」
今日は休日で、お父さんは朝からどこかに出かけてしまい、わたしとお母さんの二人っきりだ。
さっきから呼んでるって言われても…
「聞こえなかったよ?」
肩を叩かれて、初めて名前を呼ばれていたことに気が付いた。
「…もしかして、」
お母さんはボソッと呟くと、わたしの右側に移動して
「……」
「え?」
「病院行こう、楓生。多分、耳聞こえないでしょ?」
「……聞こえるよ」
たまに聞づらいことはあるけど、ちゃんと聞こえる。
「大丈夫だよ…っ」
認めたくなかった。
認めたら、本当に聞こえなくなりそうで。