【完】音にならない“好き”をキミだけに。





「……う、楓生」


「えっ…なに?」


それから、両親の関係は変わることなく秋になった。


「さっきから何回も呼んでたんだけど…」

今日は休日で、お父さんは朝からどこかに出かけてしまい、わたしとお母さんの二人っきりだ。


さっきから呼んでるって言われても…


「聞こえなかったよ?」


肩を叩かれて、初めて名前を呼ばれていたことに気が付いた。


「…もしかして、」


お母さんはボソッと呟くと、わたしの右側に移動して

「……」

「え?」

「病院行こう、楓生。多分、耳聞こえないでしょ?」

「……聞こえるよ」


たまに聞づらいことはあるけど、ちゃんと聞こえる。


「大丈夫だよ…っ」


認めたくなかった。


認めたら、本当に聞こえなくなりそうで。


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