【完】音にならない“好き”をキミだけに。
「今なら、間に合うと思うよ。さっき、加賀谷くんと別れたばかりだから」
お母さんの放った言葉を聞いた瞬間、わたしは走り出した。
倒れていたことも気にせずに、ただ、加賀谷くんに会いたくて走った。
病院を出たすぐの歩道橋の上をのんびりと歩いている大好きな彼の背中を見つけたわたしは、
「加賀谷くんっ!!」
大きな声で、名前を叫ぶ。
ビクッと肩を揺らした、加賀谷くんはゆっくりと振り返って、止まった。
歩道橋の階段を上り、加賀谷くんと向き合う。
少し距離があるのに、加賀谷くんが動揺しているのが伝わってくる。
お互い止まっているから、2人の距離は縮まらない。
「……わたし、右耳が上手く聞こえないの」
「うん」
静かに話し始めたわたしの声に、優しく相槌をうちながら加賀谷くんは聞いてくれる。