【完】音にならない“好き”をキミだけに。
……佐倉のその表情の理由を、
俺はどうして考えようとしなかったんだろう。
「佐倉は性格悪くないだろ。むしろ、俺はそう思ってくれて嬉しいよ」
ただ、嬉しくて。
佐倉の言葉が嬉しくて、自分のことしか考えていなかった。
「……なら、よかった」
気づかなかった。気づけなかった。
キミの気持ちに、俺は何一つ……。
「イチャイチャするのもいいけど、勉強もちゃんとしろよ。終わったら鍵閉めて帰るの忘れんな~」
「分かった」
否定したいところは色々あったけど面倒くさいからやめた。
担任が教室から出たのを確認して、佐倉のほうを見たらさっきのような表情はしてなかった。
「勉強しようか」
「お願いします……」
この時、気づけていたなら俺は佐倉の涙を見ることはなかったのかな―――。