ティアラ
そう思って周りを見渡すけれど、車がポツポツあるだけで人の姿など目に映らない。

「……気のせいかな」

そう判断したあたしは、人気のない駐車場の隅に自転車を置いたまま、濡れた手で工具箱を持つ。

ふふ、深町が困ってるところを見たいけど、明日も早いから今日はもう帰ろうっと。

バイトが終わって疲れてるときに、自転車置き場から自分の自転車がなくなってたら慌てるだろうなぁ。

クタクタになるまで探して、やっと見つけたときにこの無様な愛車を見れば、きっとあ然とするはず。

「百瀬美和をなめんなよ」

帰り際、もう一度、自転車を見るあたし。

ニヤリと微笑んで、あたしは軽やかな足取りで帰った。
< 115 / 555 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop