ティアラ
恐ろしいほど、その瞳は冷たくて……。

思わず、財布を落としてしまいそうになる。

「……ごめんな」

まばたきもしないで、彼はゆっくりとその台詞を吐いた。

今までの彼からはまったく想像ができなかった、素直な言葉。

展開が急すぎて、あたしは何も返すことができず、彼の顔をジッと見上げたまま。

つばを飲むだけのあたしにしびれを切らしたのか、彼は付け足すように口を開いていく。

「あぁ、口だけじゃ物足りない? ……なら、どうして欲しいのか言いなよ。土下座でも何でもしてやるよ」

そう言って、彼は捨てるように肩にかけていたバッグを地面に置き、ひざを曲げてその場に座ろうとする。

「い、いいわよ、そんなこと!」
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