あなたに恋をしたらダメですか?
「ねぇ、紫月ちゃん」
「あ、はい」
「何をどこまで聞いたの、蒼井さんから」
「あっ、えっと。陽悟さんのお父様がお母様に大変な苦労をかけたとか。それで自分もお父様みたくなるんじゃないかって、だから特定の女は作らないって、そう聞きましたけど……」


蒼井さん…。随分と言葉濁して言ってくれてるじゃん。


肝心なことは言わないのが蒼井さんらしいというか。


「そう。ねぇ、紫月ちゃんならどう思うの?」
「えっ?」
「蒼井さんがもし、俺みたいな考えの男だったらどうしてた?」


紫月ちゃんは、目を数回瞬きすると、すぐに笑った。


「そんなの関係ないですよ。吏仁は吏仁ですもん。父親とか、そんなの関係ないです。陽悟さんだって、陽悟さんですよ?」
「俺は俺……」
「そうですよ、彼女には言ったんですか?」
「そんなの言えるわけ、」
「バカじゃないですか!?」


バカって…。蒼井さんと性格、似てきたな…。紫月ちゃんだけは可愛くいてほしかったのにな。


「聞いてます?!」
「え?あー、うん」
「大体、なんて言って断ったんですか」
「なんて、って…。好きって言われたんだけど、どうしていいか分からなくてため息ついたら、泣いちゃって。その後、俺の知り合いのことで言い合いになって、ついキスしたら、怒ってもう会わないって…」
「陽悟さん……。バカですか?バカですよね?いや、もうバカですね」


すげぇ…こんなに〝バカバカ〟言われたことなんてないかもしんない。


いや、でも。こうやって言葉にすると、俺、自分の気持ち何も言ってないし、挙句に無理矢理キスしてるし、それはもう会わないって言われて当然なのかもしんねぇ…。


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