窓ぎわ橙の見える席で
「うちの息子も数年前まで海明通ってたからさ〜、あの先生のことはよく知ってるのよ。オーナーんとこの娘さんも去年まで海明行ってたし、ほら、バイトの空良ちゃんだって2年前に海明卒業たじゃない?うちの従業員って見事に海明高校にお世話になってるのよ〜」
「なるほど。……偶然、ではないですね。必然ですね」
思わずそんな本音が漏れた。
だってこの辺りで高校と言ったら海明高校くらいしかない。
だから大概の子供たちは高校の進路希望は海明高校を選ぶのだ。
「ん?そういえば……」
仁志さんが私の顔を見ていて気がついたらしく、おにぎりを包んでいたアルミホイルを剥がしながら微笑んだ。
「つぐみちゃんっていくつだっけ?」
「今年で30になります」
「じゃあ先生と同じくらいじゃないかしら」
「へぇ〜、あの先生もそのくらいなんだぁ」
「彼も海明出身のはずなのよね〜」
「━━━━━んん!?」
聞き捨てならない彼女のセリフ。
あの人が私と同じ高校出身?しかも年も近い?
「先生の名前って分かりますか?」
「えーっとね、変人先生って呼ばれてるのよねぇ。本名何だったかな〜。あらやだ、ド忘れしちゃったわ」
アハハ、と豪快に笑い飛ばすこと本日2回目。
しかしながら私の方は彼女が口走った「変人先生」に妙に胸がざわついた。
『変人先生』?
昨日の夜の彼の顔や姿を記憶の引き出しから引っ張り出す。