窓ぎわ橙の見える席で


大騒ぎの会場を抜け出して、静かなロビーで携帯を操作する。
そして辺見くんの番号を検索しようとしたところで、


「つぐみ?」


と、どこからか声がした。
よく響く低い声は、どこかで聞いたことがあるような気がする。


考えるより先に辺りをキョロキョロと見回すと、黒のパンツにライトグレーのシャツを合わせたスラリと長身の男の人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
自然なダークブラウンに染められた髪の毛はサラッと流してあって、夏なのに爽やか。
ハッキリした顔立ちの、その人は。


「大輝くん!」


気がついたら口を半開きにして彼の名前を呼んでいた。
私の、元カレの名前を━━━━━。







大輝くんとは高校1年の時に同じクラスで、一番よくしゃべった男子だった。
気が合ったし、時々一緒に帰ったりしていたんだけど、その年の冬に彼から告白されて付き合ったのだ。
まぁ、この人となら楽しいし、付き合うってどんなものなのかなぁって好奇心もあった。
心が震えるほど好きとか、どうにもときめきが止められないとか、そんな乙女な感情は残念ながら無かったんだけど。


彼は私にとっての初カレで、キスもハグもそれ以上も……モゴモゴ、初めてのことはほとんど彼に捧げたようなもんだ。


12年振りに再会した元カレは、なかなかのイケメンに成り上がっていた。








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