窓ぎわ橙の見える席で
遅れてやって来た変人くん
辺見くんに電話しようと思っていたけれど、今したんじゃちょっと大輝くんに申し訳ない。
……ということで、電話はあとでしよう。
私は手持ちのクラッチバッグに携帯をねじ込んで、大輝くんに笑いかけた。
「久しぶりだね、大輝くん」
「いやー、つぐみかどうか目を疑ったよ!綺麗になったな」
「いやいや、化粧が濃くなっただけだよ……」
お世辞はいりませんよ、とばかりに手を振ると、大輝くんはちょっと不思議そうに私に尋ねてきた。
「具合でも悪くなったのか?ロビーにいるなんて。あ、トイレ?俺はそこの喫煙所に行ってきたところなんだけど……」
「ううん、もう会場に戻るところ」
ふぅん、大輝くんタバコ吸うようになったのか。
高校の頃はサッカーに打ち込んでいてキラキラしていたけれど、やっぱり時が流れて少し変化はあるよね。
私たちは円満に別れを迎えたということもあったので、特に気まずさもなく普通に2人で会場に戻った。
大輝くんからは言葉通り、ふわっとタバコの苦いニオイがした。
そばにいたウェイトレスからカクテルを持ってきてくれた彼は、私にひとつくれた。
そして空いているテーブルを見つけてそこへ来ると、ポツポツ会話した。
「つぐみって、今仕事は?何してるの?」
「地元の食堂で調理師やってる。春までは東京で働いてたんだけど、こっちに帰ってきたの。大輝くんは?」
「俺は東進銀行の営業」
「え、凄い。一部上場企業じゃない。それでそのルックスなら女の子にモテまくりでしょ?」
「ぜーんぜん!寄ってこないよ。つぐみこそ、もう結婚……してたりする?」
ケッコンの文字がここで出てくるとは思ってなかったので、グサッと胸を刺されながらも首を振る。
「結婚どころか相手もいないよ」
「嘘だろ?そんなに綺麗になったのに?」
「だから化粧が濃いだけだってば」
全力で否定しつつ、大輝くんは変わったなぁと感じた。
高校の頃はもっと硬派というか、そういう人を褒めちぎるようなことは簡単に口にしなかったような記憶があるんだけど……。
12年も経っているのだから、変わっていない方がおかしいのかな。