窓ぎわ橙の見える席で
「つぐみは昔から料理美味しかったもんなぁ。調理師ってピッタリだよ。ほら、弁当のおかずとかさ、味付けが絶妙だったじゃん?」
何気なく発した大輝くんの言葉に、私はギョッとして慌てふためいた。
カクテルのグラスを意味もなく両手で握る。
「えっ!?私、大輝くんにお弁当作ったりしたっけ!?」
「あ、ううん。時々昼飯一緒に食べた時に、弁当のおかずくれたじゃない?冷凍モノなんてひとつも入ってなくて、だけどどれも美味しかったっていうのは覚えてる」
「そ、そうだよね……。さすがにお弁当を作ってあげたりはしてないか……」
正直言うと、大輝くんとお昼ご飯をともにしたこととか、お弁当のおかずをあげたりしたこととか、全然記憶に無かった。
もう最近は辺見くんのせいで、お弁当イコール彼になりつつあったからだ。
「俺さ、今だからぶっちゃけて言うけど、つぐみと別れてからその後の高校生活、ずっと後悔してたんだよ。やっぱりつぐみが好きだったなぁーなんて」
目を細めて懐かしそうに笑った大輝くんのその整った横顔に、私はなんと返せばいいか思いつかなくて曖昧に相槌を打っていた。
彼がそんなことを思っていたなんて知らなかったし、私は彼と別れてもそのような感情を抱く事は無かったから。
それでも過去の話だから冷静に聞いていられるんだろうけど。
すると、人混みをかき分けてワインを片手にてらみがズカズカと私たち目がけて一直線に駆け寄ってきた。
目が据わっているし、だいぶお酒が回っている模様。
「つぐみー!どこに行ったのかと思ってたよー!……あれっ?大輝くんじゃん!わぁー、久しぶり!垢抜けたねー!」
「寺浜!久しぶりだな」
「結婚して楠木になりましたぁ」
酔ったてらみは背伸びして大輝くんの背中から首にかけて腕を回すと、うふふ、と楽しそうにニヤニヤ笑った。
「元カノ口説いても無駄よ〜。つぐみは今、絶賛恋愛中なんだから〜」
「え、好きなやついるの?」
「いいえ、断じて」
誤解を招くような発言をしたてらみをキッときつく睨むと、少し驚いたような顔をしている大輝くんに向かってキッパリ否定しておいた。