窓ぎわ橙の見える席で


「でもなんで変人なの?よっぽど変態っぽい趣味があるとか?」


心なしかトゲのある言い方で尋ねる大輝くんに対して、辺見くんは嫌がる素振りも怒りの欠片もなんにも見せずに、平然と答える。


「なんでだろう?名前かな?辺見甚だから。それにこのあだ名、幼稚園の時から言われてるからなぁ……もう僕の一部なんだよね」

「変人って……最初に言い出したやつ天才。ほんとにそれっぽく見えてくるもんだな」

「ありがとう。それって僕には褒め言葉」


ニコニコしている辺見くんと、ちょっとイライラしている大輝くん。
そんな2人に勝手にハラハラしていたら、てらみが男たちの間に割って入った。


「変人くん、違うでしょ!あんたものすごい生物オタクじゃない。それで変人なんでしょ?私、覚えてるんだから!小1の時に人体模型の部位と骨の部位の名前、事細かに全部言えてたもんね〜!アレには先生たちもびっくりしてたわ」

「え?てらみさんと僕って小1の時に同じクラスだったの?」

「そーよ!どうせ覚えてないでしょうけど!」

「うん、覚えてない」

「こら、変人っ」


わりと気が合うんじゃないかと思うようなてらみと辺見くんの掛け合いにクスクス笑っていたら、大輝くんが少し身をかがめて顔をしかめながら聞いてきた。


「つぐみ、なんであいつと接点あるの?まさか本当にあんな奴のこと好きなの?」

「す、好きとかじゃなくて……。彼は私の職場の常連さんなのよ。それでよく話すようになって」

「だよなぁ。アレは勘弁してほしいよな」


え?今のどういう意味?
なんだか胸がざわついて、嫌な気持ちになった。


辺見くんはそれほど酷くはない。
確かに普段ボロボロの服を大事に着て、身なりを気にしないところはいかがなものかと思うけれど。
顔立ちだって大輝くんみたいにハッキリしたものではないが、実はそんなに悪くない。
ガリガリだった身体も痩せ気味くらいになったし、もっさりしたヘアスタイルも……う、売れないバンドマンみたいで見れないことも……ない。
フォローになっているだろうか。


パッと見が冴えないのは分かるけれど、彼の良さはそれだけじゃないのだ。


…………って私、どうして心の中でこんなことを考えているのやら。
ダメダメ、正気になれ。


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