窓ぎわ橙の見える席で


辺見くんは二杯目のビールを飲み干したところだった。
そしててらみに勧められるがままにお皿に盛られた料理をモリモリ食べる。
それはそれは美味しそうに豪快に食べる姿にはてらみも驚いていた。


てらみは辺見くんを面白い人だと認定したらしい。
大笑いしながら彼に近づいて、さっき大輝くんにしていたように後ろから彼の首に腕を回してロックした。


「変人くん!なかなかいいキャラしてるじゃな〜い。飲みっぷりもいいし、あっちでがっつり飲もうよ!超美味しいローストビーフもあったよ!あとチキンステーキも!」

「ロ、ロ、ローストビーフ……。チキンステーキ……」


今にもヨダレを垂らしそうな辺見くんは、そのままホイホイてらみについていった。


私は知らなかったけれど、辺見くんはどうも本当にそれなりに有名らしい。
母校の海明高校で教師をしているというのもあると思うけど、なによりも「変人くん」というインパクトのあるあだ名は一度聞いたら忘れられない。
遠目から見ても、色々な人に声をかけられているのが見えた。


なんだ、心配しなくてもみんなに溶け込めてるじゃない。良かった。
でもなんだろう、ほんの少し寂しい気持ちが過る。


虫とか微生物とかのコアなネタをぶっ込んでいるのか、時々爆笑している声も聞こえたりして。
そうか、彼の偏屈なところを面白くて魅力的に感じる人は意外と多いんだ……。そう思ったらなんだか遠い人みたいに思えてしまった。


「つぐみの働いてる食堂ってどこなの?」


私の隣で大輝くんが話しかけてくる。
なんとなく辺見くんのいるあたりを目で追いながら、若干うわの空で答えた。


「トキ食堂だよ〜」

「あぁ、高校の近くにあったような覚えがある。あそこの目の前にある海水浴場で大学の頃ライフセーバーやったりしたなぁ」

「へぇ〜そうなんだぁ」

「つぐみは?学生時代なんかバイトしてたの?」

「へぇ〜そうなんだぁ」

「つぐみ?」

「へぇ〜そうなんだぁ」

「………………」


心ここにあらずであることに気づいていないのは、私だけなのだった。










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