窓ぎわ橙の見える席で
昔ながらのオヤジでもあるオーナーには、クレームブリュレは得体の知れないものらしい。
眉を寄せて不思議そうに首を捻っている。
「クレームブリュレ、です。でも昨日のは即席の偽物ですけど……。最近は居酒屋とかでも出してるみたいですよ」
「ほぉ〜。なんかよく分からないが、先生が食ってるの見て、単純に美味そうだと思ってさ」
昨日の適当に作ったなんちゃってクレームブリュレをそんな風に言ってくれるのは、私としても素直に嬉しい。
思わず顔が綻んだ。
すかさずホールから空良ちゃんの元気な声が聞こえる。
「私っ、クレームブリュレ大好きですっ!昨日の私も美味しそうだと思いましたっ!」
「だよねぇ」
「ありがとうございます」
共感してもらって納得しているオーナーに、お礼を告げる。
すると、彼から提案をされた。
「なぁ、つぐみちゃん。君さえ嫌じゃなければ、何か新しいデザートも考えてくれないかな?もうウン十年近く、プリンしか出してないんだ。せっかく一流シェフがいるんだから、デザートも一新してもいいかと思っててさ」
「やったーーー!」
先に感想を述べたのは、私ではなく空良ちゃんだった。
まかないで食べられると思っての万歳らしい。
「こーら、キッチンの会話に口は挟んじゃダメよ」と涼乃さんに怒られている。
予想外のオーナーの提案だったけれど、あのクレームブリュレもどきでそこまで考えてくれたのはありがたかった。
私に出来ることなら、もちろんやりたい。
「分かりました!……ただ、前の職場で専門に作っていたわけではないので、簡単なものしか作れませんが……それでもいいですか?」
「うん、もちろん構わないよ!つぐみちゃんには今よりも負担がかかるかもしれないけど」
「それは大丈夫です」
答えながら、ひとつの閃きが頭に浮かんだ。