窓ぎわ橙の見える席で


「明日はカレイの煮付けとティラミスだよ」

「おぉ、これまた美味しそうですなぁ」


これも毎度のことなんだけど、彼は次の日の定食やデザートを聞いてくる。
なので今日は先に教えてあげた。
嬉しそうに目を細める辺見くんの横顔を見れて、ちょっと嬉しくなっちゃう私。


辺見くんは運転しながら、たいてい定食のことか生物のことを話す。
今日もまた、なにやら生物の話を始めた。


「今日、生物部の生徒が恐竜図鑑持ってきてさ、久しぶりだなーって読んでたら色々思い出しちゃったよ。僕は昔からパキケファロサウルスが大好きでね、あの石頭を強調したフォルムとか、前足のちっちゃさとかたまらなく可愛くて……」


私はパキなんとかサウルスとかいうのを知らないので、適当にうなずくしか出来ない。
それでも彼の生き生きした表情は、見ていて飽きない。


そしてふと考える。
一体いつからこの生物オタクのことが好きだったのか、と。


そもそも誰かに告白されて、まぁ付き合ってみるか程度の恋愛しかしてこなかった私にとっては、ちょっと特殊な今回。
彼と付き合いたいとかそんなことを思うでもなく、この心地いい距離感を保って過ごしたいような気もしていた。


冷静になって思い返すと、高校の頃から私は彼を目で追っていた。
当時付き合っていた大輝くんのサッカー姿も見ずに、辺見くんが虫だの微生物だの捕まえたり摂取したりしてる姿を見ていたのだ。
だってそっちの方が面白かったから。
興味があったからだ。


私は昔から辺見くんに興味があって、そしてついこの間それが恋なんだと気づいた。
ということは、高校の時から彼のことが好きだったのだろうか。


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