窓ぎわ橙の見える席で


チラリと隣を見ると、辺見くんは私が聞いていなくてもペラペラとパキなんとかサウルスについて語り続けている。
その豊富な知識量をちゃんと学校の授業に生かせているのかは謎である。
パキなんとかサウルスなんかどうでもいい私の思いなど知らず、彼はとても楽しそうだ。


シートにもたれて外の景色を眺めていたら、この間設置されたばかりのドリンクホルダーの中に何かが入っていることに気がついた。
ホルダーの入口から何かが飛び出している。


そーっと手を伸ばして、その何かをつまみ出す。
「あ」と私が声を出すと、辺見くんが


「あ!やっと見つけてくれた?」


と言った。


「何これ?暗くてよく見えない」

「タツノオトシゴのボールペン」

「………………は?」


タツノオトシゴ?
そりゃその海の生き物のことは知ってるけど、そんなボールペンって存在するの?


「この間、文房具屋で見つけてテンション上がっちゃって。可愛いでしょ?宮間さん喜ぶかなぁと思って買ったの。1週間前からそこに置いてたんだよ」


対向車のヘッドライトがこちらを照らした時に目を凝らしてよく見たら、かなりリアルなタツノオトシゴの形をした風変わりなボールペンボールペンだった。
正直言って、可愛くはない。
てらみあたりは「キモッ」って言うレベル。
それでも私に買ってきてくれたのはなんだか嬉しかったりして。


「全然気づかなかった。わざわざありがとう」


ついニヤニヤしそうになる顔を、気を引き締めて押さえ込んだ。

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