窓ぎわ橙の見える席で
もらったボールペンは、バッグに入れて持ち歩いているレシピノートに挟んだ。
表面がデコボコしているので使いにくそうな気もしたけれど、好きな人からもらったものは大事に使いたいのが女心ってものです。
ノートを再びバッグにしまおうとしたら、辺見くんに声をかけられた。
「ねぇ、そのノートって何?ものすごく分厚いね。重くない?」
「あ、これはレシピが書いてあるノートなの。学生時代から書き溜めてたやつだから、家にあるのを含めると15冊超えるんだよね」
何気なく答えた私の話は、彼にとっては衝撃的だったらしい。
運転中だっていうのに、目を丸くして驚いていた。
「そんなにあるの!?そりゃあ、定食のメニューがかぶらないワケだね」
「でもデザートはそろそろ限界。トキ食堂の厨房にある道具だけだとどうしても限られちゃうし、もともとお菓子は専門外だからレシピノートも2冊しか無いし」
「他のは全部フランス料理?」
「ううん。和食もイタリアンも中華も、わりとまんべんなくあるかな〜。フレンチが一番多いのは間違いないけどね」
付箋だらけのノートをパラパラめくりながら、最近の悩みを彼に打ち明ける。
「失敗なのが、ジャンルごとにノートを分ければよかったのに全部ごちゃ混ぜにして書いちゃってるところなのよね。見たい時に探せなくて、いっつもイライラしちゃう」
「パソコンとかタブレットは?持ってないの?」
「……………アナログなもんで。持ってないです。さすがにスマホはどうにか使いこなしてるけどね」
苦笑いすると、辺見くんは「なーんだ」とあっけらかんと笑った。
「じゃあタブレット端末だけ買いなよ。僕がスキャンしてパソコンで整理するから、それをタブレットにつなげば簡単に調べたいレシピを検索できるようになるよ」
機械オンチの私にはイマイチよく分からない言葉が出てきて、辺見くんの言いたいことが伝わってこない。
でもとりあえず彼は私を手伝おうとしてくれているらしい。