窓ぎわ橙の見える席で
「つまり、タブレット端末を持ち歩くだけでいいの。ノートの中身が全部入力されてるから、わざわざ分厚くて重いノートを持ち歩く必要が無くなるんだよ」
普通に教えてくれる辺見くんの横顔を見ていて、少し疑問に感じる。
なんだか機械に詳しいような口ぶりなのは気のせいだろうか。
「あのー、辺見くん?」
「はい、なんでしょう?」
「ガラケー使ってるのに、パソコンとか出来るの?」
「あららら。宮間さんってば失礼なんだから。僕は電話とメールが出来ればいいからガラケーを使ってるだけ。パソコンが出来るかどうかとは話が別だよ?」
「タブレットとかよく分かんないんだけど」
「大丈夫。僕に任せて」
にっこり笑った辺見くんの妙に自信がみなぎっている表情。
どうやら本当に機械には詳しいようだ。
ここはひとつ、彼に一任してみよう。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「うん。だけど、その代わり」
辺見くんは言葉をいったん切り、赤信号でちょうど止まったタイミングでこちらを見つめてきた。
前の車のブレーキランプで照らされ、顔がよく見えた。
穏やかに微笑んでいる。
「タブレット買った後、パソコンでスキャン作業したり名前を打ち込んだり、ジャンルを分けたりしなくちゃいけないから、僕の家に来てね。宮間さん、来月あたりで土日のどっちか休みの日あるかな?」
「……………………辺見くんの家に行く?私が?」
「当然でしょ?レシピノートだけドンと渡されても分からないもの。もし休みがもらえないなら、タブレットだけ僕が買っておくよ。それでもいい?」
「…………あ、はい……」
いつかも体験した彼の笑顔を振りまきながらの押しの強さ。
これを今もまた感じた。
思わずうなずくと、辺見くんは満足げに
「じゃあ、それで決まりね」
と前を向いたのだった。