窓ぎわ橙の見える席で
辺見くんの家に行く、ということ。
いや、深い意味なんて無いのよ。
それくらい分かってます、私だって大人ですから。
仲のいい同級生が困ってるから手助けしてくれるだけなのよ。
彼に襲われるとかそういう心配は全然していない。
だってホテルに泊まった時でも抱き合って眠ったこと以外は至って何も無かったわけだし。
問題なのは、彼が生物オタクであるということ。
見たことも聞いたこともない虫だとか微生物だとか、そういうのを飼ってるんじゃないかと不安になる。
私の大嫌いな虫の標本が飾ってあったり、グロテスクな見た目の魚とかがいたら無理。
部屋に入って、叫ばずに帰ってこられるか心配になる。
あまりにもものすごいインパクトがあった、思い出したくもない、高校時代に見た寄生虫のハリガネムシがいたなら。
辺見くんをビンタしてしまうかもしれない……。
ぶるっと身震いしながら過ごすこと2週間。
結局土日のお休みはもらうことが出来なくて、代わりに1日だけいつもよりも早めに仕事から上がらせてもらえることになった。
18時に仕事を終わらせ、オーナーや涼乃さんたちに「お先に失礼します」と声をかけてお店を出た。
こんなに早い時間に帰るなんて、トキ食堂で働き始めてから初めてのことだった。
夏の18時はまだ少しだけ明るくて、水平線には綺麗な夕日が残っていた。
それが海を照らして、キラキラしている。
海も浜辺も道路も人も、私も。全てを橙色に染める。
お店を出て夕日を眺めていたら、隣接する駐車場から辺見くんの呼ぶ声がした。
「宮間さーん、お疲れ様〜」
「あ、うん!」
私は返事をして、彼のいる駐車場へと急いだ。