窓ぎわ橙の見える席で
「ちゃんとレシピノートは全部持ってきた?」
車に乗り込むなり辺見くんに確認されたので、私はコクンとうなずいた。
朝、ノートを全部紙袋に入れたら底が抜けて穴があいたので、大きなトートバッグに変えたのだ。
この膨大な量を薄いタブレット端末に収めることか出来るなんて、そんな凄いことを本当にこの人が出来るのかちょっと疑ってしまう私。
「タブレットいくらだった?お金払うから」
「あとで家でレシート渡すよ」
相場がいくらなのか分からないので、お財布にはお金を多めに持ってきたけど足りるかな。
そんな心配をよそに、いつも私を家まで送ってくれるルートとは違う道を車が走り抜ける。
地元だから大体の地名とか、大きめの道路も知っているけれど。
細い路地に入るとよく分からなくなる。
休日の辺見くんはいつもの服に輪をかけたようなボロボロの服を着ていて、お願いだからもう捨てて下さいと懇願したくなるようなサンダルを履いていた。
ヨレたTシャツも、野暮ったい黒いズボンも、一体いつ買ったんだろうって不思議に思う。
しまった、虫だらけの家だったらどうしようってそればかり心配してたけど、もしかしてゴミだらけの家かもしれない。
服とか食べ物が散乱していたら、お節介精神が爆発して全部掃除したくなりそうだ。
何もかもが未知数の辺見くん。
私はどこかソワソワした気持ちで助手席に大人しく座っていた。