窓ぎわ橙の見える席で


辺見くんの住んでいるアパートは、私が勝手に想像していた築ウン十年のボロアパートなんかじゃなく、わりと普通の外観のアパートだった。
壁は薄いオレンジ色で、なんだかポップな印象。


「意外と今風の所に住んでるんだね……」


ボソッと私がつぶやくと、辺見くんは聞き取れなかったのか「え?」と言いながらポケットから部屋の鍵を出した。


「あまり片付いてないから申し訳ないんだけど、平気かな?」

「ゴ、ゴミ屋敷じゃなければ……」

「あのね、宮間さん。僕をなんだと思ってるの?」

「す、すみませんっ」


うっかり本音が出てしまうこの性格、なんとかしないと。


101号室のドアの前に立ち、彼は鍵を差し込んで回す。
ガチャと金属音がして、扉が開いた。
夏だから当然なんだけど、部屋の中はかなり暑くなっているようで熱気が外へ流れ出す。


玄関は……、片付いている。
小さな収納スペースに靴が何足か並んでいた。
どれもこれもボロかったけど、私と一緒に買い物した時に買った靴と、もう一足マトモな革靴が置いてあった。


「なによ、ちゃんとした靴あるじゃない」


パンプスを脱いで彼の後ろをついていきながらそう言うと、辺見くんは当然のようにうなずいていた。


「それは入学式とか卒業式用。一着だけスーツも持ってるよ」

「な、なるほど……。使用頻度が低いから綺麗なのね……」


服に金をかけない男とはまさに目の前にいる彼のことを言うのだろう。
あまりにも極端すぎるけれど、それが辺見くんなのだ。


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