窓ぎわ橙の見える席で


辺見くんのアパートの間取りは1Kのようだ。
キッチンを抜けてリビングに繋がるドアを抜けると、8畳ほどのフローリングの部屋が広がった。


虫、虫、虫、寄生虫、虫、魚、虫、虫……。


どんな恐ろしいものが目に飛び込んでくるのかと身構えていた私は、リビングに入って拍子抜けした。
なんというか、普通の部屋だったのだ。


「あ、あれっ!?虫は!?魚は!?飼ってないの!?」


思わずそんなそとを口走り、部屋中を見回す。
壁一面に置かれた巨大な本棚がかなりの存在感を発揮していたけれど、それ以外はこれといった異常(虫とか虫とか虫とか)は見当たらない。
シングルベッドがあり、テーブルがあり、猫のトイレがあり、猫グッズがあり……。
床には何着か服が脱ぎ捨ててあったり本が無造作に置かれてたりはするけれど、別に汚い印象は無い。


なんというか、想像の範囲内の男性の部屋だった。


「虫?魚?そんなの飼ってないよ?アンだけで僕は十分だよ」


いつの間にか辺見くんの足元にはライトブラウンの毛が綺麗な猫が擦り寄ってきていて、ご主人様の帰宅を待ちわびていたかのようだ。
アンがいるからリビングだけはエアコンをつけっぱなしにしているようで、キッチンとは大違いの過ごしやすさだった。


「てっきりハリガネムシがお出迎えするのかと思ってたの」

「ハリガネムシ?…………あぁ、高校の時に宮間さんが気絶したやつね」


彼はアンを抱き上げて撫でながら、楽しそうに笑っていた。
きっと昔、私が倒れた時のことを思い出したんだろう。いまだに恥ずかしくて悲しくなる。

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