窓ぎわ橙の見える席で


耐熱容器にご飯を敷き詰め、卵を落としてチーズで蓋をする。
そのままトースターで5分チンして、溶けたチーズの上に塩こしょうを振りかけた。
いつかのお昼の番組でやってた、簡単レシピ。
こんなに材料が限られている中で、よく思いついたものだと自分を褒めてあげたい。


それをリビングに持っていくと、辺見くんは感動していた。
それはもう、目をキラキラさせて。


「天才だよ!凄すぎるよ!!」

「こんなんで褒められても……」

「美味い!」

「ってもう食べてるし!」


私のツッコミを聞いた辺見くんが急いで後からいただきます、と手を合わせていた。
でも彼はすっかりもぐもぐと咀嚼して食べている。
こうして好きな人に美味しいって言ってもらえるのって幸せだなぁと、密かに心が温かくなった。


「俄然やる気が出てきたよ。宮間さんはアンと遊んでて。タブレットの設定はあらかた終わったから、スキャン作業に移るね」


人懐っこいアンを私の膝に乗せてきた辺見くんは、食事をしたあとは一言もしゃべらずに作業に没頭していた。
あのおしゃべりな彼が全然しゃべらないという不思議な空気感。
仕事をしてる時っていつもこんな感じなのかな。


真剣な表情でパソコンの画面を見たり、私にはちっとも分からない機械を使いこなしてレシピノートをスキャンしていく姿は新鮮だった。
その姿は、高校時代にどんな時でも生物の図鑑を読んだり、調べ物をしている時の彼とタブって見えた。
彼は変わってないんだと実感する。


辺見くんの顔を遠目で眺めつつアンと遊んでいたけれど、アンが私の足の上でウトウトし始めたから困ってしまった。
こちらまで急に睡魔が襲ってきた。


ベッドの縁に身体を預けているうちに、そのままアンと共に眠ってしまった。


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