窓ぎわ橙の見える席で
ゆさゆさ。
身体を揺すられた。
ゆさゆさ。
肩に置かれた手があったかい。
ゆさゆさ。
まだまぶたが重くて開けない。
ゆさゆさ。
まだ眠いのよ、まだ寝ていたいのよ。
今何時なの?
夢と現実の狭間で唸っていたら、耳元で辺見くんの声がした。
「起きないとキスするよ?」
その一言で私は弾かれるように飛び起きた。
膝の上に乗っていたアンが「むぎゃっ!」と悲鳴を上げて毛を逆立て、軽い身のこなしで膝からベッドへ飛び移った。
たぶん真っ赤に充血しているであろう目を動かし、寝ぼけた頭で辺見くんの姿を探す。
いや、探さなくとも彼は目の前にいたのですぐに捉えた。
「ご、ご、ごめん!寝ちゃった!何時!?」
油断しきった寝顔を見られた恥ずかしさとさっきの「キスするよ」っていうセリフがぐるぐる脳内を駆け巡り、妙に焦る。
辺見くんはというと、実に落ち着いた様子で微笑んでいる。
「まだ9時だよ。スキャン作業は終わって、レシピの名前も入力しておいた。あとはそれぞれどの料理がどのジャンルになるのか、ひとつひとつ教えて欲しいんだけど」
「ひぇ〜ごめん。全部やらせちゃったんだ〜……」
「いいよ。仕事終わりで宮間さん疲れてたんでしょ?時々フガフガ言ってて可愛かったよ」
「ちょ、ちょっと!からかわないでよ!」
「だってほんとのことだもん」
しれっと言い切った辺見くんは、アワアワしている私なんかそっちのけで即座にパソコンの方を向いて再び作業を再開する。
彼ほど読めない男っているのだろうか?いや、いない。