窓ぎわ橙の見える席で


さっきまで私の膝の上にいたアンは、部屋の隅に置かれているモフモフのクッションに身を埋めてまた寝入ったようだ。
ごめんよ、アン。
ちょっと悪いことをしたなぁと密かに思う。


「これがスキャンした画像ね」


私が辺見くんのそばに近づくと、彼はパソコンの画面を見せながら説明してくれた。
ノートに書いていたページの一部が画面に表示されている。
紙のものがパソコンに取り込めるなんて思いつきもしなかった。
東京で働いていた頃はひたすら料理を作っていたし、トキ食堂でもオーナーたちはアナログ人間なので売上などはパソコンを使わずに手書きをしている。


「で、これを例えば和食で登録すると、こっちのジャンル検索の和食で出てくるよ。もしくは検索の部分に料理名を入れると……、ほら、こんな風に一発で出てくるから」


彼の説明をメモしながら、手元を見たり、画面を見たり。
頭も目も手も忙しく動かして大変。
だけどしっかり覚えれば格段に作業は効率化する。


そこからは、辺見くんが画面に映し出したレシピと料理名を元にひとつひとつチェックしながら「和食」「デザート」「フレンチ」などと伝え、彼はそれを素早く言われた通りにパソコン上で並べ替えてくれた。
ノート15冊を超える料理。
それは半端じゃない数だし、短時間でスキャンして料理名まで入力した辺見くんを心から尊敬した。


時折彼は「ちょっと休憩〜」と言って部屋の本棚から昆虫図鑑を取り出し、虫たちの写真を眺めてニヤついている。
それだけは本当に理解出来なかった。


背中を丸めて身を寄せ合って、パソコンの画面を2人でのぞき込む。
テレビもついていない静かな部屋で、ボソボソ会話する声とマウスをクリックする音だけが聞こえた。


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