窓ぎわ橙の見える席で
そのうち会話をするのも億劫になり、ノートの順番通りにスキャンしてくれていたので、先回りしてノートの方にジャンルを書いてそれを彼に渡すことにした。
料理名の横にジャンルが書いてあれば彼も入力しやすいだろうし、いちいち確認する手間も省ける。
私たちは無言になったけど。
高校2年の時、隣の席になった時でさえこんなに近くに彼を感じたことは無かったと思う。
私は彼に興味があったけれど、それは変人くんと呼ばれる不思議な人だったからである。
10年以上経ってから再会した辺見くんは、高校時代とどこも変化なんかない。
独特のしゃべり方も、いつもヘラッと笑ってるところも、気持ち悪い生物を好きなところも、何もかも変わらない。
ということは、恋愛にも興味が無いままなのだろうか?
彼は高校の時に確かにこう言っていた。
「僕は恋愛には興味が無いんだ」と。
アラサーになってからの片想いってけっこうキツい。妙なプライドもあるし、照れもあるし、同級生だったからこその距離感もある。
しかも私はここしばらく、それも相当年数彼氏がいない。経験値が圧倒的に足りない。
恋愛したいと思っても、相手が自分を好きでなければどうにもならないのだ。
「辺見くん。ちょっと休憩してもいい?」
私がそう言うと、彼は私の方を見もせずに「ふーん」と答えた。
集中している時は返事も適当だし、きっと無意識に違いない。
キッチンでお水を飲んで、ため息をつく。
なんだか無性に腹が立ってきた。
私だけが彼を好きだという事実に、虚しさを覚えてきたからだ。
天然な性格なのはなんとなく分かってはいたけれど、ここまで来ると重症じゃないの?
抱きしめてきたりするのって反則だと思うのよね。
そういうのに女が弱いってことをヤツは知らないんだ!
無自覚男ほど罪な男はいない!
私はキッチンからリビングに戻り、ポツンと座って黙々と作業する辺見くんの背中に話しかけた。