窓ぎわ橙の見える席で
「辺見くんの変態」
完全に暴言とも取れるその言葉。
だけど辺見くんはさっきと同じように、こちらを見もせずにつぶやく。
「ふーん」
やっぱり私の話なんて全然聞いてないじゃないか。
「おーい、生物オタク〜」
「ふーん」
「人の気も知らないでっ」
「ふーん」
「私のことなんか興味無いくせに〜」
「ふーん」
「優しくしないでよね〜……」
「ふーん」
いくら話しかけても、彼の反応は同じ。
どう考えてもちゃんと聞いていない。むしろ私が席を外したことさえ分かってない気もする。
もうちょっかいかけるのは諦めて、私のために頑張ってくれている彼を労おうとキッチンへ戻った。
あまり使われていない様子のキッチンをウロウロして、ようやく棚の中からコーヒーの粉を見つけた。
お湯を沸かしてマグカップにコーヒーをいれて、それをリビングにいる彼の元へ持っていった。
「時間見つけて飲んでね」
「ふーん」
またそれか。
ため息をつきつつ、私は部屋の壁一面に設置されている大きな本棚に近づき、適当に何冊か本を手に取った。
どれもこれも読み込まれていて、年季が入っている。
「ふしぎ!草食動物の生態」「潜って獲って調べよう海の生き物たち」「寄生虫のオキテ」「深海魚の謎に迫る!新・解体新書」「これで君も昆虫博士」「微生物の世界へようこそ」
なんだか見るのをためらうようなタイトルの本も沢山あった。
中には小学生が読むようなものもあり、彼の歴史が伺える。
パラパラとページをめくり、ふと手を止めた。