窓ぎわ橙の見える席で
ところどころ、付箋紙が貼られているのだ。
最初は仕事で使うところに印をつけているだけだろうと大して気にも留めなかったけれど、それには共通点があることに気がついた。
付箋紙のついた本をいくつか選び出して、今度はしっかり中身をチェックしてみる。
あれもこれも、それもどれも、知っている。
名前も聞いたことがあるし、なんとなく生態も知っている。
そうだ、全部辺見くんに聞いた生物の名前なんだ。
帰りの車の中とか、何気ない時に私に話してくれた生物に印がつけられている。
━━━━━つまりこれって……どういうこと?
本棚の方を向いて眉を寄せて重い図鑑を抱えていたら、いきなりトントンと後ろから肩を叩かれた。
不意打ちだったので驚いて慌てて振り返る。
「きゃあ!な、な、何!?」
私と同じくらい目を丸くした辺見くんが、ポリポリと頬をかいて首をかしげていた。
「何って、全部終わったよ?」
「あ、ありがとう……」
しどろもどろになりながらお礼を言うと、彼は私が持っている図鑑に気づいて微笑んだ。
「どう?読んでて楽しいでしょ?」
「た、楽しいっていうか……」
「うん?」
「この付箋…………意味ってあるの?」
ドキドキしながら勇気を持って聞いたっていうのに、彼は私が差し出した図鑑を受け取るとパラパラと流し見して目を細めていた。
「こういうのって読んでると夢中になっちゃうんだよね〜」
「辺見くん!はぐらかさないでよ!」
「とりあえずタブレットの説明だけさせて。大事な話はその後」
図鑑は辺見くんの手によって本棚に収められ、私は彼に促されるままにテーブルへ戻った。
そこには真新しいタブレット端末が置いてあり、彼はそれを手にするとベッドに腰かける。
私も彼の隣に座った。
大事な話って何よ。
期待なんかしないんだから。
私は彼の顔は見ずに、新品のタブレット端末をガン見したのだった。