窓ぎわ橙の見える席で
猫よりも誰よりも
辺見くんはタブレット端末の基本的な使い方からレシピをどのように呼び出して画面に表示するのか、事細かに説明してくれた。
料理名を検索エンジンに入力すれば一発で出てくるし、ジャンルだけ入れれば一覧が出てくる。
なによりノートを何冊も持ち歩かなくても、この薄くて軽いタブレットだけで済むというのはものすごく便利に思えた。
「辺見くん、天才だね。本当に本当にありがとう。仕事がしやすくなるよ」
タブレットの画面をスワイプしながら感嘆のため息を漏らすと、彼は得意げに胸を張った。
「僕、案外こっち方面は出来るんだよ。分からない時はいつでも言って」
「タブレットってもっと難しいと思ってたよ。おっきいスマホみたいなものなのね」
「まぁ、そうだね。画面に防水フィルム貼っておいたから、調理中にも使えるよ」
「おぉ〜!気が利きますなぁ」
「宮間さんだからここまでやったんだけどね」
隣で普通の口調でけっこうすごいことを言っている辺見くんの言葉を、私は頑張って意識した強い精神力でどうにかスルーした。
「そ、そうだ!辺見くん、さっきコーヒーいれたの。暑いのにホットにしちゃったけど大丈夫かな?……ってもう冷めたかな〜」
「あとで頂くよ。ありがとう。それよりもちょっと大事な話があるんだけど」
来たっ!
なんだかソワソワして妙に小っ恥ずかしい気持ちになるので、敢えてタブレットの画面に視線を落としたままで答える。
「せ、生物の話ならあとで沢山聞いてあげるから!」
「違うよ。宮間さん、ちょっと僕の目を見てくれない?」
「ごめん、今タブレットに夢中でそれどころじゃ━━━━━」
意地でも辺見くんの方は見るもんかと笑ってごまかしていたら、彼の手が伸びてきて私の両頬を包んだ。そのまま強引にグイッと彼の方を向かされる。
頬を両手で押さえられて、だいぶ酷い顔になっているだろう。
いつものヘラッとした笑みを浮かべて、その瞳は楽しげに光る。