窓ぎわ橙の見える席で
数ヶ月前に、自宅の押し入れにあった卒業アルバムを引っ張り出して彼の名前を探したことを思い出していた。
坊主頭のあどけない小学6年生の彼が、今こうして私の目の前で30歳になった姿でいる。
彼は私の好きな人。
だけど向き合うと気恥ずかしくなるのは、昔の彼を知っているからだ。
「そろそろ僕の気持ちには気づいてもらえてるかなぁと思った頃なんだけど、どうなんだろ?」
辺見くんは私の頬を両手で挟んだまま、なかなか大層なことを言い始めた。
ぐるんっと視線を宙に浮かべて誤魔化す。
「え?何が?」
「何がって……。好きでもない子のためにこんな面倒なことしないよ」
「はぁ、そうなの?」
「もしかして本当に気づいてなかったの?」
驚いたようなキョトン顔で呆れる彼に、イラッとして言い返した。
「だって勘違いだったら虚しいじゃないっ。もうこの年になると恋してドキドキ〜だとかワクワク〜だとかそんなの無いし!」
「そっか。僕はドキドキしてたけど」
彼があまりにも涼しい顔でそういうことを言うので、私は動揺しまくって汗でベタベタの手で彼の手を振りほどいた。
そんな私の態度に、辺見くんは肩を落として落ち込んでいる。
「宮間さんは僕にはドキドキしないんだね。残念だな」
冷房は十分効いているはずなのに。
私だけ冷や汗をかいている。
ついでに言うと、信じられないほどに心臓がドキドキしていた。