窓ぎわ橙の見える席で
何度か短いキスが繰り返されて、わりと気持ちがいいのでされるがままになっていたら。
辺見くんがするりと舌を入れてきたので、焦って彼の肩をどついた。
「こらっ!なに調子乗ってんの!」
「ダメ?」
いやいやいや、ダメとかそういうことじゃなくて。
呆気に取られそうになる自分を奮い立たせて、なるべく冷静に聞こえるように落ち着いて笑いかけた。
「ほら、ね?こういうのは段階踏んで、もっとデートとかしてドキドキ感を高めてから徐々に……」
「僕はもう十分ドキドキしたから大丈夫」
穏やかで害のない男だったはずの辺見くんは、実はそうではなかったことを知った瞬間だった。
彼は私に言葉を返す隙間も与えないようなキスを浴びせてきて、そのままベッドへ組み敷かれた。
容赦なく塞いでくるヤツのキスから逃げるようにして抵抗する。
「でもさ!夏だし!汗かいてるし!」
「平気。そういうの気にしない」
「私は気にするんだってばっ」
「じゃあ一緒にお風呂入る?」
「………………」
「大丈夫。そんなのも気にならないくらい理性が吹っ飛ぶはずだから」
信じられない。
どこぞのイケメンのチャラ男が言うならまだしも。辺見甚のセリフだと誰が思うだろう。
彼のキスにすっかり溶かされた私も私なんだけど。
「辺見くん……草食系の顔なのに肉食系なのね……」
「僕はその造語は気に入らないね」
辺見くんは器用に私の服を脱がせながら、当然のごとくスラスラしゃべる。
「生物学的にも心理学的にも雄と雌が求め合うのは自然なことだよ。それに好きな子を抱きたいと思う男の欲求としては、自分の快楽を求める以外に彼女の悦ぶ顔が見たいという強い気持ちが存在していて……」
「も、もういいっ!しゃべらないで!集中してっ」
もう降参!もうどうにでもなれっ!
口で適うわけが無い!
おしゃべりな変人くんの手によって、私はその夜、忘れられない夜を体験することとなった。
生物オタク、恐るべし。