窓ぎわ橙の見える席で
これからのこと
「あれ、つぐみさん。そのボールペンどうしたんですか?随分個性的なの使うんですね〜」
トキ食堂が閉店して、いつものように厨房のイスに腰かけて翌日の定食のメニューを考案していたら、カウンター越しに空良ちゃんが私の手元を見て話しかけてきた。
そりゃあそうだ。
今まで百円ショップの安っぽい無難なボールペンを使っていたっていうのに、突然タツノオトシゴのボールペンを使い始めてたら目立つよね。
「貰い物なの」
「なんでしたっけ、それの名前」
「タツノオトシゴ」
「あぁー、そうそう!」
そうだそうだ、と手を叩いてスッキリしたような顔をした空良ちゃんがホールの片付けに戻ろうとしたところで、彼女の隣からひょいと涼乃さんが顔を出した。
「あら、それどこかで見たことあるわね。あ、そうだわ、確か先生が使ってたわ」
「え?先生って、変人先生?」
「うん、そう。あららら、どうしてつぐみちゃんが先生とお揃いのボールペンなんか使ってるのかしらねぇ〜?」
「…………あらららら」
涼乃さんと空良ちゃんの会話の雲行きが怪しくなってきたので、私はゲホゲホ大げさに咳払いをして立ち上がる。
「私のボールペンのことなんてどうでもいいじゃないですか!さっさと仕事に戻ってください!ちっともメニューが決まりませんよ」
「あらぁ〜何かしらねぇ〜、気になるわぁ〜」
涼乃さんはニヤニヤと笑みを浮かべて空良ちゃんを促し、2人でカウンターから姿を消した。