窓ぎわ橙の見える席で


本宮さんの答えは意外なものだった。


「いいや、むしろその逆。とても美味しかった。もちろんデザートも。別な日に来ても、いつも美味しくてね、あの定食の金額では足りないくらいだ」

「ありがとうございます!」


ホッと胸を撫で下ろしていると、「でもね」と彼は付け加えた。


「敢えて言うなら、盛りつけがね。もっと工夫してもいいのになぁなんてね」


それを聞いて、何気に凹んだ。
盛りつけに関しては私だってすごく悩んでいる。
スピードが要求されるトキ食堂では盛りつけは重要視されない。
辺見くんのマネを無意識にしてしまって、ポリポリと頬をかいて答えをごまかした。


そんな私に、本宮さんはどんどん話を振ってくる。


「東京出身というのは、どこかのお店にいたのかな?」

「ホテルのレストランにおりました」

「ほぉ。ホテルというのはどこかな?」

「えっとそれは……」


嘘を教えるのも変な話なので、モゴモゴと前の職場の名前を告げる。
すると彼の表情が一変した。


「なんとまぁ、さらに驚いた。確かに一流だな」

「私じゃなく、職場が一流ってだけです」

「それでも在籍してたんだからそれなりに見込みがあったんだろう。そこで何を担当してたんだい?」

「い、一応フレンチを……」

「うぅーん、なるほど!だから心なしか和食の定食でもちょっと普通と違う味つけなのか」


1人で納得している様子の本宮さん。
普通と違う味つけとは?
自分では全く自覚など無いのだけれど、彼のようなプロが食べると何か違うように感じるのだろうか?


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