窓ぎわ橙の見える席で


「定食と銘打っていながらも毎回定食向きじゃない料理ばかり出すから、どんな人が作ってるのか気になってたんだ。宮間さんはフランスに修行なんかは行ったの?」


暗闇でも分かる。本宮さんの目が輝き始めたことが。
私への興味が強くなっている証拠だ。
そんなに腕のいい人間ではないというのに、大丈夫だろうか?


「海外には留学も修行も行ってません」

「やはりそうか。味に遊び心が足りないもんなぁ。もったいないと思ってたんだよ。料理は人と同じなんだよ。工夫次第で垢抜けさせることが出来る」

「は、はぁ……」


本宮さんはトキ食堂のオーナーは絶対に言わないセリフをポンポン口にする。


「圧倒的に香辛料が足りないし、下味も足りない。オーブン系の料理があまり無いのは、業務用のそれが無いからなの?」

「そうですね、家庭用の電子レンジしかありません。オーブン料理は出来ないです」

「うーん、ますますもったいない!フレンチは諦めたのかい?」

「そ、それは……」


ぐいぐいっと顔を近づけて質問攻めされる。
諦めたのかと聞かれるとそうだとは答えがたい。だけどそうじゃないとも言えない現状だから、曖昧な反応しか出来ない。
困り果てていると、少し離れたところから


「宮間さん」


と呼ぶ声が聞こえた。
辺見くんの声だ!助かった。


「どうしたの?大丈夫?」


きっと彼は遠目で私と本宮さんを見て、ただならぬ空気を感じ取ったのだろう。
心配して声をかけてくれたらしい。


「大丈夫。待たせちゃってごめんね」

「そう。…………あ、どうもこんばんは。辺見と申します」


辺見くんがいつもの口調で本宮さんに深々と頭を下げながら名乗ると、本宮さんも好意的に受け取ったのか微笑んで軽く会釈をした。


「初めまして、本宮圭造です。待ち合わせのところ引き止めて申し訳なかったね」

「いえ、そんなことないです」


香辛料が足りないとか下味が足りないとか、ガッツリダメ出しをされたことさ心に刻み込んで首を振っておいた。

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