窓ぎわ橙の見える席で


駐車場で突っ立って話すことでもないので、どちらともなく辺見くんの車へと乗り込む。


すぐに気づいた、車の新しい変化。
タンブラー型の小型空気清浄機。
これも私のためなのか、彼はタバコを吸うわけじゃないから別に気にしなくてもいいのに。
フフ、と和んでいたら辺見くんの声。


「宮間さんがこの街に帰ってきた理由は、おばあちゃんの仏壇にお手製の料理を毎日お供えするためだよね?」

「ん?……うん、まぁね」


そりゃさっきの話を引きずらないわけがない。
突然やって来た本宮さんに散々動揺させられた私としても、ちょっと頭を冷やしたい。
辺見くんは普通のテンションで、サラッと軽く提案してきた。「こんなのはどう?」と。


「さっきの人のお店だったら市内だから遠くないし、実家から通えるよね?それならそこで働かせてもらえばいいじゃない?おばあちゃんの仏壇にも変わらず料理をお供え出来るんだしね」

「………………そんなの、ダメに決まってるじゃない」

「ダメ?なんで?」


若干不満なのか、彼にしては珍しく眉をひそめて感情をあらわにした。


「宮間さんがやりたいようにやって何が悪いの?」

「トキ食堂の人たちに悪いもの……」

「……………………う〜ん……」


私の弱々しい反論に、彼が何かを言い返すことは無かった。
あの明るくて優しい人たちばかりのトキ食堂を裏切られるわけがない。まだ半年ほどしか働いてないけれど、それでも楽しく働けているのは彼らの人柄がいいからだ。


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