窓ぎわ橙の見える席で
話の流れでさっき彼はサラリと言ったけれど、私の昼間の想像(またの名を妄想)の中でも「沼」が出てきた。
なんなのよ、沼!
「そこの海明高校の先生なんですね。パートの仁志さんに聞きました」
「はい。生物の教師をやってます」
なぜなのか分からないけれど、私と彼は停留所のベンチに並んで座って話を続けていた。
変態を否定しなかったので、念のため適度な距離を置いて座ってますが。
「昨日は突然失礼なことを言ってしまってすみませんでした」
「昨日のこと?」
「どこかで会ったことがある〜、とかなんとか」
「あぁ」
彼は肩をすくめて、なんてことないような顔をしていた。
変人先生と呼ばれているわりには、意外と話しやすい雰囲気の人だと思った。
もっとこう、偏屈で、近寄りがたい感じの人なのかと勝手に思い込んでいたからだ。
「先生も海明出身なんですよね?私もなんですよ。仁志さんが、もしかしたら私たちって年が近いんじゃないかって言ってたんですけど……。先生はおいくつですか?」
私より年上だと思うけど、仁志さんの話も引っかかるしこの際聞いておこう。
そう思って聞いただけだったのに、彼の反応は違っていた。
「たぶん僕たちは同級生だと思いますよ」
「…………………………………………え?」
ナニソレ。
目が点になる私に、畳み掛けるように彼はツラツラと話し続けた。
「昨日、あなたはトキ食堂の皆さんから『つぐみちゃん』と呼ばれてましたね。それで、家に帰ってからあなたのことを思い出しました。名前は宮間つぐみさん。合ってますか?」