窓ぎわ橙の見える席で


その途中で涼乃さんに耳打ちされた。
「遠慮しなくていいからね」と。
彼女の言いたいことが言葉は少なくても十分に伝わってきて。
なんだか胸がキュッと締め付けられた。


「お、つぐみちゃん来たか」


私が現れると、オーナーはどうぞと言わんばかりに隣を空けてくれたので、そこへちょこんと座らせてもらった。
思ったよりも2人の空気感が重くない。


「さて。本宮さんに話は聞いたよ」

「はい……」


早速本題を切り出してきたオーナーに、私は歯切れの悪い返事をした。
心中を察してくれたのか彼はポンと優しく肩を叩いてくれて、そしていつものように豪快に笑った。


「つぐみちゃん。君のことだからウチの店のことを気にしてくれてるんじゃないかと思ってね」

「そ、それはもちろん!私はトキ食堂の人間ですから!」

「うん、ありがとう。俺はその言葉だけでも嬉しいよ」


私の肩に添えられたオーナーの手から、じんわりと温かさが伝わってくる。彼の人柄が滲み出るように。
オーナーはすでに私が本宮さんのお店に行くものだと解釈しているらしい。そんなことはないと伝えたくて口を開く。


「オーナー!私の気持ちとしては……」

「宮間さん。フレンチに未練はないのかな?」


私の決意を砕くように(本人はその気は無いのだろうが)食い気味に質問してきたのは本宮さんだった。
キラリと輝きに満ちた目が煌めく。
答えあぐねる私に、畳み掛けるように問いかけてくる。


「もっと美しく料理を魅せたい、もっと手間暇かけて料理を作りたい、コース料理を手がけたい、そう思ったりはしないのかな?」


本宮さんの気迫に押されて、私は答えに詰まる。
彼はまるで政治家のような妙な説得力を持っている気がした。

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