窓ぎわ橙の見える席で
アミューズブーシュから始まり、前菜、スープ、お口直しのグラニテ、メインディッシュ、フロマージュ、デザート、そして締めのカフェ。
それら全てに意味があり、ひとつひとつ丁寧に作り上げて、食べてくれる人に魅せる。
未練が無いと言い切るのは、嘘になるのかな。
この町へ戻ってきた時は「これが正しい」とそればかり言い聞かせてきたけれど、違っていたのかな。
おばあちゃんの仏壇に私の作った料理を毎朝お供え出来れば、どんなところでも働いていけるなんて思っていた。
それが今のトキ食堂だと思っていた。
なのに、どうしてこんなに悲しいのだろう。
私が沈んだ表情で答えないので、代わりにオーナーが本宮さんに答える。
「つぐみちゃんはね、確かに新しく定食を作り出す時に色々俺に提案してきたんですよ。盛り付けを良くしたいとか、デザートにバジルだかパセリだかそんなん添えたいとかね」
「オーナー、ミントです……」
「あぁ、それだわ!あはは」
ひとしきりオーナーは笑ってから、
「今思えば、あれはフランス料理へのこだわりだったんだなって思って。だから無下に潰してしまって悪いことをしたと今さら反省してるよ」
とボリボリ頭をかいた。
「気づいてあげられなくてごめんな、つぐみちゃん。でもウチの店はそういう店なんだ。味がよければ見た目にはこだわらない。そこに俺はこだわりたい。つぐみちゃんがこだわりたいところはそうじゃないんだろう?」
「…………それは…………」
違います、と言いたいのに。
私の口はその気持ちを言葉にはしてくれなかった。