窓ぎわ橙の見える席で
「うへぇ、夜の墓地って不気味だね。うわっ!宮間さん、今僕の背中触った?」
「さ、触ってないわよ!見なさいよ、私の両手塞がってるじゃない!」
「じゃ、じゃあ今の何!?」
「考えないで!感じるのよ!」
「おぅおぅ、おーけー、フィール……」
「黙れっ」
こんな小競り合いをしながら、真っ暗な墓地をうろつく2人組。私と辺見くん。
いつものバッグを右手に、仏花の花束を左手に抱えてすり足で歩いている。隣の辺見くんは水の入ったバケツをブラブラさせていた。
なんでこんな非常識極まりない時間におばあちゃんのお墓参りをしようとしているのかと申しますと。
それには簡単な理由がある。
私と彼の休みが合わない。それだけ。
土日休みなんか希望しない限りもらえない私の仕事を考えれば当たり前のことなのだけれど。
早い方がいいという辺見くんの意見に従って、2人で仕事帰りに墓地に訪れたというわけなのだ。
それにしても夜の墓地、不気味すぎて腰が引ける。
見えるはずのないものが見えそうで怖い。
いえ、もちろん霊感などゼロに等しいですがね。
「もうすぐおばあちゃんのお墓だから……、っと!ぎゃっ!」
「え、なに?どうしたの?」
前触れもなく悲鳴を上げた私に驚いて、辺見くんが目を細める。暗くてよく見えないらしい。
私は暗闇でもなんとなく分かる腕の感触に怯えて、バッグを放り投げて彼に抱きついた。
「う、腕に!何かくっついた!む、む、虫じゃない!?」
初秋の嫌なところ。夏より案外虫が多いところ。
こっちは本気で怖がってるっていうのに、辺見くんは呑気な声を出す。
「宮間さん、僕の腕に胸が当たってフワフワしてて気持ちがいいよ」
「バカッ!そんなことどうだっていいでしょ!?早く私の右腕確認してよ!」
「お墓参り終わったら僕んち泊まってくれる?」
「泊まります泊まります!キスでもなんでもしますから!虫を取ってください変態エロ変人!」
暴言を口走っても辺見くんは気にしない。
マイペースに小型の懐中電灯を取り出して私の腕を照らした。
なるべくなら虫が寄ってくるから懐中電灯は出してほしくなかったけれど、この際仕方ない。