窓ぎわ橙の見える席で
スッと右の二の腕あたりにあった違和感が消えた。
どうやら辺見くんが取り除いてくれたらしい。
「宮間さん。もう大丈夫」
「良かったぁ、ありが…………」
「クダマキモドキだったよ。ほら、可愛い」
お礼を言いかけて凍りつく私。
瞬時に虫の名前を言い当てて、緑色のバッタみたいなヤツを指でつまみながら嬉しそうにデレデレする辺見くんを見て、本気で引いてしまった。
「ぎゃああっ!早く放してよっ!もうヤダ、こんな彼氏っ」
「僕は宮間さんみたいな綺麗な彼女が出来て毎日嬉しくてたまらないけど」
「こんなところで褒めなくてよろしいっ」
何が悲しくて墓地の真ん中でこんな会話をしなければならないのか。
お願いだから普通にしていてほしい。
というか静かにお墓参りしたかったのに、虫のせいでぶち壊しだ。
やっとの思いでたどり着いたおばあちゃんのお墓。
お盆の時に来たばかりだったけれど、その頃にあげたお花は取り除かれていた。
持ってきた雑巾で軽くお墓を拭いて、お花にはお水をたっぷり入れてバランスを見ながら飾った。
ほんの少しだけ持ってきたお線香に火をつけて、2人で手を合わせる。
さっきまで騒がしく話していたのが嘘のように、シンとした空間で私と辺見くんはひたすら手を合わせ続けた。