窓ぎわ橙の見える席で
眉間にシワを寄せて目をつぶっていたら、隣から声が聞こえた。
「宮間さん、いま何考えてる?」
「………………おばあちゃんが話しかけてくるの、待ってるの」
「おばあちゃん、話しかけてきた?」
「ううん、残念ながら。でももう少し待ってみる」
「………………………僕が代わりにおばあちゃんの声を代弁してあげようか?」
胡散臭い男のセリフだな、とうっすら目を開けた。
やっぱりというか、彼は私を見て微笑んでいた。いや、ニマニマしているといった表現が正しいような気もする。
「辺見くん、霊感あるの?」
「無いけど……、おばあちゃんの気持ちにはなれるかな」
「なによそれ」
そんなの信用出来るか!と言い返してやろうと思ったら、辺見くんの大きな手がフワッと私の頭に乗せられた。
その手が優しく髪を撫でるように揺れる。
「つぐちゃん、毎日美味しいご飯をお供えしてくれてありがとう」
彼が唐突に言い出した言葉は、私を黙らせるのには十分だった。
おばあちゃんがかつて呼んでくれていた「つぐちゃん」という言い方を、辺見くんが知っていることにも驚いた。
もしかしたら前におばあちゃんの話をした時に話題に出したかもしれないけれど、それを覚えているなんてすごい。
「和食もいいけど、たまには洋食も食べたいの。時々出してくれない?カレーやシチューでも構わないから」
「…………ふふ、分かった」
「それから、つぐちゃんのお得意のフランス料理も」
「………………辺見くん」
「おばあちゃんよ」
「………………おばあちゃん」
あくまで自分はおばあちゃんが乗り移ったのだと言い張りたいらしいオネエ言葉の彼に合わせて、なんとなくおばあちゃんと話している気分になりつつ呼ぶ。
辺見くんはニコッと微笑んだ。