窓ぎわ橙の見える席で
「おばあちゃん、もし良かったら答えてくれないかな。私はこれからどうしたらいいのか……」
虫の鳴く声くらいしか聞こえない墓地で私がそう言うと、おばあちゃんに扮した辺見くんは穏やかな声で答えた。
「その答えは、もうつぐちゃんの中で決まってるんじゃないの?おばあちゃんには最初からそう見えてたよ?」
「……………………でもその道を選んだらまた忙しくなって、仏壇にお供えするのも大変になって手抜きになるかもしれないし。……それに、最近出来た彼氏と合う時間も減るかもしれないんだよね……」
「あらまぁ、つぐちゃんたら恋人が出来たのね?あらあら、なんだかすごくイケメンでキリッとした顔つきの素敵な殿方じゃないの」
「イケメンではない。ヘラッとしてますがキリッとはしてません。てゆーか本題はそこじゃありませんが」
「あらあら、おばあちゃんってばついついね」
おほほ、とあざとく口に手を当てて笑った辺見くんは、私の顔を覗き込むようにして口を開いた。
「つぐちゃんがやりたいことをやって、笑顔でいてくれることがおばあちゃんの何よりの幸せだから。休みの日にご馳走作ってくれたらなーんにもいらない」
「………………本当にそう思う?」
「思うよ。彼のことも大丈夫だよ。つぐちゃんは気づいてないみたいだけど、彼は相当あなたを好きみたいだから。なんにも心配いらないみたいね」
「………………そういうことはここで言わないで」
「照れないで、つぐちゃん」
笑う場面じゃないのに、笑いがこみ上げてきてしまってこらえる。
同時にポロッと涙がこぼれた。
唇をキュッと結んで涙を拭いたら、隣からおばあちゃんじゃない辺見くんの手が伸びて私の肩に回された。
「そういうことです、宮間さん。おばあちゃんの声は聞こえたかな」
「ばい。ぎごえまじだ」
「泣いちゃダメ。楽しいことがこれから待ってるんだから、泣くんじゃなくて笑わなきゃね」
「ばい」
鼻水をすすりながらなんとか返事をしたら、辺見くんが空を仰ぎながら優しい表情でポツリと言った。
「宮間さんのフランス料理、食べに行かなくちゃ」
「………………彼氏には無償で提供致します」
「ありがとう」
彼が抱いてくれる肩が、ぽわんと温かくなって嬉しくなった。
この人が隣にいて応援してくれたら、これから新しい世界に飛び込もうとしている私も、まだまだ頑張れそうな気がした。