窓ぎわ橙の見える席で
「今日はこのあとあの変態彼氏とデートなんでしょ〜?彼、よく見ると可愛い顔してるのよねぇ」
うふふ、と何を思い出し笑いしているのか田子さんが肩をすくめて私をチラチラ見てくる。
それに対して冷静に「変人です、変態でもありますけど」と訂正する私。
この会話を笑って聞く本宮さんは、たいてい苦笑いしている。
私がこのお店で働くようになってから4回ほど辺見くんは足を運んでくれて。
それで一応「恋人です」とみんなに紹介したら田子さんが食いついたというわけなのだ。
その時初めて激しく動揺してたじろぐ彼を見て、内心うっしっしとほくそ笑んだものだ。
もう今となっては懐かしき思い出だったりする。
キッチン4人、ホール4人のこのお店は決して広くはないけれど、口コミですでに評判は広まっていてお客様はあとを絶たない。
そしてディナーのみの営業なので午前中はたっぷり休めるのがありがたかったりする。
余談だけど、前に辺見くんと訪れた当時の人気店のフレンチレストランは閉店してしまったらしい。
何かのキッカケでお客様が入らなくなったのか、その原因は分からないけれど。客商売というのは、ごまかしなど聞かないのだという証明になった気がした。
「じゃあ仕込みも全部終わったようだし、今日はおしまい。お疲れ様ね」
本宮さんはピカピカに磨かれた調理台を満足げに眺めたあと、私たちに一瞥してキッチンを出ていった。
「さ、つぐみ!あんたもさっさと支度なさい!変態が待ってるわよ!」
「あ、変人です……」
面倒だけど、念のため訂正。
そして私は急いで着替えてお店を出た。